垂秀夫・前駐中国大使が台湾問題で猛抗議する「戦狼外交官」華春瑩を黙らせた一言とは?

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《言うべきことはハッキリと言う》

〈「これまで中国は礼儀の国だと思っていましたが、
私の理解は正しくないということがよく分かりました」〉

中国外交部からの抗議に対して、前・駐中国大使は冷静にこう切り返した。

昨年12月に駐中国大使を退任したばかりの垂秀夫氏(62)が、
中国外交部との緊迫したやり取りの詳細を初めて明かした。

安倍総理の発言に中国外交部が態度を一変

〈2021年12月1日夜、私は北京中心部にある中国外交部1階の応接室で、
女性報道官であり、「戦狼外交官」として著名な華春瑩部長助理(次官補)
と対面し、冒頭の言葉を投げかけました。

発端は、同日に台湾で開かれたシンポジウムでした。

オンライン参加した安倍晋三元総理が「台湾有事は日本有事」と発言。

日本が台湾問題に関与を強めることを警戒した中国側は、
これに猛反発したのです。

垂氏はそれ以前からカウンターパートであるアジア担当の呉江浩(現・駐日大使)に
別件で面会を求めていたが、中国側は一向に時間を作ろうとしなかった。

にもかかわらず、安倍元総理の発言が伝えられると、中国外交部は態度を一変させた。

〈「すぐ外交部に来てほしい」と連絡してきたのです。

失礼な話ですから、当初、部下には「放っておけ」と伝えたのですが、外交部は
「来ないなら、今後、垂大使とのアポイントメントは全て拒否する」と脅してきた。

仕方なく面会は了承しましたが、すぐさま駆けつけるのは癪に障るので、
夜の会食が終わった後、あえて1時間ほどしてから、外交部を訪ねたのです〉

出張中だった呉氏の代理として出てきたのが、華氏だった。初対面だったが、
席につくなり華氏は「申し入れをしたい」と抗議文を強い口調で読み始めたという。

30分ほど黙って聞いていた垂氏だったが、抗議が終わるとこう切り出した。

〈「華春瑩さん、初めてお目にかかります。

まずは最近、部長助理に昇進されたことを、お祝い申し上げたい」

抗議をする場合でも、挨拶や雑談から始めるのが、外交上の礼儀です。

彼女は途端に「マズい」という表情をしました。

一転して、「このような場でありますが(お祝いしていただき)、
ありがとうございます」と居住まいを正した。

これで、力関係が決まったのです。私はこう続けました。

「私が面会を申し込んだときは逃げるだけ逃げて、自分が会いたい時は
『すぐに来い』と呼び出す。これが貴国の礼儀のあり方ですか」〉

国益に基づき、言うべきことはハッキリと言う

習近平氏の一強体制と言われて久しい中国。

それに伴い、各国との外交において数多くの課題が顕在化してきた。

日本をはじめ、北京に駐在する各国の外交官にとっては厳しい環境が続いている。

だが、垂氏は外交官として持ち続けてきた信念についてこう語る。

〈大使在任中は、いわば敵陣にいるわけですから、
理不尽な目に遭うことが多々ありました。

それでも、国益に基づいて、中国に対して言うべきことはハッキリと言う。
それだけは常に心掛けてきました〉

人呼んで「中国が最も恐れる男」
垂氏は京都大学を卒業後、1985年に外務省入省。

天安門事件から4日後の1989年6月8日に初めて駐中国日本大使館に赴任し、
以来、北京駐在は4度にわたった。

2020年9月から駐中国大使を務め、昨年12月に外務省を退官した。

交友関係は中国共産党の中枢に加え、民主派・改革派の知識人や
人権派弁護士にまで及び、中国の裁判所で「スパイ要員」と認定されたこともある。

人呼んで「中国が最も恐れる男」である。

さらに垂氏は、昨年11月に日中首脳会談が実現した経緯や、習近平体制で
中国の統治システムがどのように変化していったか、日本は対中外交を
どう進めていけばよいのか、などについても詳しく明かしている。

短期集中連載「駐中国大使、かく戦えり」1回目の記事全文は、
月刊「文藝春秋」2024年2月号(1月10日発売)と、1月9日公開の
「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

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