欧米の「中国製EV」締め出しの背景「対岸の火事」ではない…苦境の「日本車」に新たな試練

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欧米の「中国製EV」締め出しの背景

欧米諸国は、近年、中国製電気自動車(EV)の締め出しを進めています。

その背景には、以下の3つの理由が挙げられます。

経済安全保障上の懸念

中国政府は、EV産業への投資を積極的に進めており、
世界最大のEV市場となっています。

しかし、中国政府は、EV産業を国家安全保障上の重要産業と
位置づけており、国家主導で産業を育成・管理しています。

そのため、欧米諸国は、中国製EVの安全性や品質、
データの取り扱いなどに懸念を抱いています。

雇用への影響

欧米諸国では、EVの普及を国内産業の活性化と雇用創出の機会と捉えています。

そのため、中国製EVの輸入を抑制することで、
自国のEV産業と雇用を保護しようとしています。

地政学上の対立

欧米諸国と中国は、近年、経済や安全保障をめぐって対立を深めています。

その一環として、欧米諸国は、中国製EVの締め出しを、中国への
圧力をかけるための手段としても活用しています。

具体的な動きとしては、以下のような事例が挙げられます。

米国

米国では、2022年8月に成立した「インフレ抑制法」において、米国で
組み立てられたEVに最大7,500ドルの税額控除を認める一方で、
中国製EVには税額控除を認めない規定が盛り込まれました。

また、2023年には、EVの安全基準を強化する法案が成立し、
中国製EVの輸入に影響を与える可能性があります。

欧州

欧州連合(EU)では、2023年7月から、EVのバッテリーに使用される
コバルトやリチウムなどの鉱物資源について、EU域外からの輸入に
環境・人権基準を適用する規制を導入します。

この規制は、中国製EVの製造コストを押し上げ、
競争力を低下させる可能性があります。

日本

日本政府は、中国製EVの締め出しには慎重な姿勢を示していますが、EVの
安全基準を強化するなど、中国製EVの輸入に影響を与える動きもみられます。

欧米の「中国製EV」締め出しは、今後もさらに進展する可能性があり、
日本を含む世界の自動車産業に大きな影響を与える可能性があります。

日本は2位に転落

日本は昨年、中国に「世界一の自動車輸出国」の座を奪われて2位に転落した。

日中逆転は、先週公表された中国の昨年の自動車輸出実績から判明した。

日本の年間データは本稿執筆(1月14日)段階で未公表だが、11月分までを
見る限り、中国のリードを覆すことが難しいことが明らかな状況なのである。

この中国躍進の原動力は、電気自動車(EV)の拡大だ。

だが、国内の不動産不況に喘ぐ中国の外需頼み、つまりEVによる輸出ドライブは、
中国経済の救世主になるとは限らない。

むしろ、欧米のEVナショナリズムを煽り、新たな経済安全保障論議を
沸騰させかねない状況を生んでいる。

そして、EVナショナリズムを「対岸の火事」と考えるのは安易だ。

それどころか、かつての勢いを失った日本車に新たな
試練を与えかねない雲行きになっている。

中国の業界団体の先週木曜日(1月11日)の発表によると、2023年の中国の
自動車の年間輸出台数は、前年比57.9%増の491万台と過去最高を記録した。

一方、日本自動車工業会によると、日本車の輸出台数は2023年1月から11月までの
11カ月間の合計が399万台にとどまっている。

今後発表予定の12月分を加えても400万台前半までしか積み上げられず、
中国車には及ばないことが確実だ。

日本が世界一の自動車輸出大国から転落するのは、ドイツの後塵を
拝した2016年以来のことである。

この点では、また一つ日本の退潮が鮮明になった格好だ。

日本車はまだ、依然としてガソリン車やハイブリッド車に軸足を置く状況から
脱しておらず、中国との彼我の差が開き続ける厳しい状況が予想されている。

2016年の時と違い、今回は巻き返しが容易ではなさそうなのだ。

繰り返すが、中国車の躍進の原動力は、EVの輸出ドライブだ。

特に、欧州連合(EU)向けの増加は目覚ましい。

欧州委員会によると、EU域内での中国メーカーの販売シェア(金額ベース)は
2019年の0.4%から、2022年に3.7%まで急上昇したばかりか、2025年には
15%に膨張する見込みだ。

バイデンの戦略

しかも、この統計に含まれる純粋の中国ブランド車とは別に、中国で生産したうえで
傘下や合弁先の欧州車ブランドを冠してEUに輸出しているものや、欧州メーカーが
中国で生産して欧州に輸出しているものが多く存在することも見逃せない。

前者の典型は、上海汽車の英老舗のMGブランドで欧州に輸出しているEVがあるし、
後者には仏ルノー傘下のルーマニアのメーカー・ダチアが中国湖北省で生産し
欧州に輸出しているEVなどがある。

中国の国内総生産(GDP)レベルでみれば、EVの輸出は低迷する個人消費を補う規模ではない。

とはいえ、こうしたEV車輸出は、不動産不況からの回復が遅れて思うように中国国内での
自動車販売を伸ばせない中国車メーカー各社にとっては、成長戦略の切り札な存在だ。

米テスラを猛追する中国車最大手のBYDなどはEVシフトをさらに拡大する構えを見せている。

しかし、かつて大恐慌からいち早く抜け出すために欧米向けの輸出ドライブをかけたことへの
反発からABCD包囲網を敷かれて太平洋戦争に突き進んだ日本の戦前の例を持ち出すまでもなく、
中国製EVの欧州向けの突然の輸出ドライブの強化は欧米諸国にとって看過できない問題だ。

欧米諸国内での自動車産業の雇用の縮小を招きかねないからである。

いち早く、こうした中国製EVやその基幹部品であるバッテリー、バッテリーの部材・原料の
市場席巻に神経を尖らせてきたのは、米国のバイデン政権だ。 

同政権は2022年8月、北米で組み立てられたEVの新車を購入する際に限って、消費者に
最大7500㌦(約100万円)の税額控除を認めるインフレ抑制法(IRA)を成立させた。

この税額控除でテスラなどの米国製EVの販売を支援する一方で、中国製などにはこうした
税額控除を認めず米国内販売を抑え込む戦略を打ち出した。

その後も、税額控除の条件を、車両だけでなく、電池や資源のサプライチェーン全体に
拡大・厳格化し、中国製などを締め出す戦略を採ってきた経緯がある。

今年から税額控除を受けられるEVリストをみると、車種数が16から8に半減した。

この結果、日本車ではそれまで唯一の対象車種だった日産リーフが外れ、
対象の日本車はゼロとなった。

日本車メーカー各社は現在、追加でなんとか対象車種を作ろうと生産体制の
見直しなどで悪戦苦闘している状況だ。

そして、域内からの突き上げを受けて、EUの欧州委員会は昨年10月、中国製EVが中国政府の
不当な補助金をテコに強い競争力をもってEU域内での販売シェアを伸ばし、域内のメーカーに
損害を与えているのではないかとの観点からの調査を開始した。

声明によると、EUは「証拠を見つけた場合、我々は断固たる行動をとる」と強調、
制裁関税の導入を示唆している。調査期間は13カ月以内となっている。

「共倒れ」の懸念

また、個別の国としては、フランスとイタリアが購入補助金の対象から中国製EVを外す方針だ。

その補助金額は、フランスで5000〜7000ユーロ(約80万〜110万円)という。

電力も含めて製造・輸送時に排出する二酸化炭素(CO2)を勘案すれ、CO2の
排出削減効果が乏しいとの考えが中国製EV外しの根拠となっている。

ちなみに、前述のルノー系列の「ダチア・スプリング」は補助金とガソリン車からの乗り換えを
支援する給付も活用すれば1台当たり130万円前後で購入でき、欧州最安レベルのEVとの評判を
得てきたが、フランス政府が昨年末に公表した補助金制度の改定策では、この
「ダチア・スプリング」と上海汽車集団傘下の英国ブランドの「MG4」、そして米テスラ社の
中国製EV「モデル3」が対象外となっている。

一連の欧州諸国の対応で、原資の枯渇を理由に、ドイツはすべての欧州製EVも
含めて購入支援を突如打ち切った。

この措置の本当の狙いは、支援が中国製EVを利するだけとの判断が
あったのではないかとの見る向きもある。

中国は諸外国から問題指摘を受けた時のいつものパターンで、EUの調査にも強く反発している。

中国商務省の何亜東報道官はEUの調査開始に先立つ2023年9月の記者会見で、
「EUの調査は、公正な競争を騙る自国産業保護だ」「サプライチェーンを歪め、
経済と通商に悪影響を与える」「中国は、動向に最大限の注意を払い、中国企業の
合法的な権益を断固として守る」と、強面の発言をした。

また、中国商務省はEU産ブランデーを不当廉売の疑いで調査し始めており、
EUへの対抗措置の第1弾とみられている。

米国とEUの措置は揃って、世界的な課題であるカーボンニュートラルよりも
自国産業の保護を優先する側面が強い。

この点では現地にも一定の批判がある。

このほか、そもそもEVの基幹部品である車載用のバッテリーで中国勢が
世界シェアの6割を押さえて込んでいるうえ、原料の黒煙で中国が高い
シェアを持つ中で、中国政府が報復措置としてバッテリーの欧米向け
輸出を絞れば、中国の輸出が減る一方で、EUでもEV不足や価格の高騰が生じ、
双方が共倒れにならないか懸念する向きもある。

実際のところ、ドイツのウィッシング運輸・デジタル大臣は現地メディアの
インタビューに応じ、EUが中国製EVへの追加措置として関税の賦課に
踏み切った場合、「報復措置を招き、ドイツ経済に悪影響を及ぼす恐れがある」と述べ、
EUの調査などを批判した。中国市場が最大の顧客になっているBMWや
フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツグループといったドイツ車メーカーが
損失を蒙りかねないというわけだ。

一方で、強く憂慮せざるを得ないのが、欧米の中国製EV締め出しのとばっちりを受けて、
ただでさえハイブリッド車に拘り続けてEV車で出遅れている日本車メーカーが巻き返す
余地が奪われかねない問題だ。

中国製EVの輸出ドライブは、日本車の有力輸出市場だった東南アジアも席巻している。

相変わらず、こうした地域でガソリン車やハイブリッド車を主体にした
品揃えしている日本勢には、EVの弾不足もあり、深刻な問題だ。

だが、米国ですでに日産リーフが税額控除の対象から外れたのに続き、欧州各国の
購入支援やEUの輸入関税上乗せ対象に日本製EVも加えられる可能性は決して小さくない。

日本としては、中国製EVの無秩序かつ過剰な輸出ドライブには警鐘を発しつつ、
自由貿易を堅持することで、世界的なEVとそのサプライチェーンの発展を
支えていくことが重要だ。

そのためには、EV普及策に絡めて内外差別を強める欧米諸国の現状に対しても、
釘を刺すことは避けて通れない。

バランスの取れた歯止め策を打ち出し、官民を挙げて調停者役を演じることができるのか。

こうした時こそ、「貿易立国」を長年志向してきた日本の「鼎の軽重」が
問われているのかもしれない。

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