ロシア、中国の自国侵略に深い懸念 流出文書で明らかに

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中国の侵略を撃退するためにロシアがどのように核兵器を使用するかを、
英紙フィナンシャル・タイムズのマックス・セドンとクリス・クックが明らかにした。

漏出した機密文書を基にしたこの興味深い報道は、力を取り戻した中国がロシアの
東部領土の併合を試みるかもしれないと、ロシアが長年深く懸念してきたことを裏づけている。


中国とロシアが数年前に「無制限」の友好を宣言したことを考えたとき、
無頓着な西側の人々には、この国境を接する2国の間で核兵器を用いた
応酬が行われる可能性は低いように思えるかもしれない。

だがロシアは、国境を接する友好関係はすぐに変わり得ることを知っている。

前回、中国と旧ソ連が友好条約を結んだときは、20年も経たないうちに
国境をめぐってひどい紛争が起きた。

アジア全域での中国の行動は、過去のささいな仕打ちや長年にわたる領土の
喪失を中国がずっと覚えていることを示している。

領土拡大にこだわる中国の民族主義者らは、ロシアの軍事的弱点を中国が
ますます蔑むようになっていることと相まって、過去の敗北に対する憤りを
利用して衰退したロシアに十分歯向かうことができる。


ロシアはこのことを知っており、中国の冒険主義を抑止するのにかなり苦心している。

ロシア陸軍が過剰なまでにウクライナに注力しているにもかかわらず、ロシアは昨年、
核弾頭の搭載が可能な弾道ミサイル「イスカンデル」の演習を「中国と国境を接する地域」で2回行った。

中国による国境を超えた侵略に核を用いて対応するというロシアの計画の具体的な証拠は、
やがて中国が人口の少ないロシア東部の領有権を主張し始め、長い間無視されてきた
ロシアのアジア系市民を擁護するために手を差し伸べるかもしれないと、ロシアがいかに
懸念しているかを明らかにしている。

興味深いことに記事では、ロシアの核を用いて対応するシナリオを、中国軍がロシア領内に
侵入した後、主に同軍を標的にする最後の自衛手段ととらえているようだ。

これはひどい話だ。このような想定は、欧州重視のロシア軍の幹部らが、アジア系のロシア市民が
いるところで核兵器を使用することにほとんど良心の呵責を感じないことを示唆している。

奇襲阻止で核兵器を使用する要件

フィナンシャル・タイムズの恐れを知らない2人の記者は「2008〜14年に作成された29の
ロシア軍の機密文書」にアクセスした。そこには「戦闘作戦のシミュレーションや、
核兵器使用の運用原則を議論する海軍将校向けのプレゼンテーション」が含まれていた。


2人は、ロシアの核兵器使用の要件が非常に緩く設定されていることを発見した。

核兵器の使用に踏み込む事態には「ロシアの戦略弾道ミサイル潜水艦の20%、
攻撃型原子力潜水艦の30%、巡洋艦3隻以上、あるいはその他のさまざまな
陸上の標的の破壊」が含まれていた。

これらの数字は非常に小さい。ロシアが現在運用する弾道ミサイル潜水艦は11隻のみだ。

2隻、あるいは20%を失った場合を要件に設定していることは、ロシアが中国に対して
抱えている不安を浮き彫りにしている。

攻撃型原子力潜水艦は17隻が就役しており、5隻失えば核攻撃が始まる。

米国の戦争計画の策定者らが台湾有事で失うと予想している原子力潜水艦の数に比べれば、
ロシアが設定している損失数は極めて少ない。


西側の核不拡散の専門家が好んで探るような、手の込んだかなり複雑な戦略態勢を
示しているのではなく、この数字は極めてシンプルな防衛戦略を示唆している。

中国の奇襲をいかに抑止するか、ロシアが10年以上前に多くのことを真剣に
検討していたことが文書で示されている。

戦略文書は2014年までのもので、報復を想定した数字になっているようだ。

米海軍情報局は2015年に、ロシアが太平洋で運用しているのはボレイ級の
核弾道ミサイルを搭載する潜水艦2隻、それから攻撃型原子力潜水艦と
巡航ミサイを発射する潜水艦の6隻程度と考えていた。


ロシアの海軍基地はすべて、当時射程を伸ばしつつあった中国の中距離ミサイルの
射程圏内にあったことからして、中国がロシアの太平洋艦隊を壊滅させようと奇襲を
かけた場合にどうなるかを詳細に記しておくことは妥当なようにみえる。

そしてこれは米国の戦略家が心に留めておくべきことかもしれない。

現在のロシアの核抑止力は10年前よりも低下している可能性がある。筆者が以前書いたように、
ロシアが弱体化し、欧州での動きに気を取られている今、中国は軍事力を用いることなく、
ロシアの力がそこまで及んでいない東部の領土を事実上併合する真の機会を手にしている。

中国が突然の領土強奪に動く素地は整っている。中国は長年にわたり、ロシアとの
長い国境に関して恨みを鬱積させてきた。

多くの中国人の間では、太平洋側に位置するロシア極東地域最大の都市ウラジオストクは
ロシア名で知られていない。古くからの中国名が今でも広く使われている。

中国との経済的・文化的結びつきは無視できないものになりつつある。

ロシア東部の領土権の変更は刻一刻と迫っている。中国は核戦力を急速に増強しており、
これによりロシアの核抑止力ははるかに弱くなっている。

また、民族的・経済的バランスが変化し続ける中、欧州に注力しているロシアの支配層は
日に日に弱体化している。中国はやがて、ロシアがウクライナ南部クリミアで実行した
戦略をそのまま流用し、往々にして信頼できない核抑止力に領土保全を託すロシアの望みを
砕くために、似たような戦術を用いるかもしれない。

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